大阪出張とスーツと

2019年2月某日、新大阪駅地下のドトールでアイスコーヒーを飲みながら、Macbookの電源コードをデスク上部のコンセントに差し込み、19時50分新大阪発東京行のぞみ254号の発車を待っている。
ホテルをチェックアウトしたのが朝10時。
それから東梅田の地下街を抜けて、大阪駅に直結する商業施設、ルクアイーレの9階にあるスターバックスで約6時間程度、ちょっとしたPC作業をしながら時間をつぶし、10階のレストランフロアで熱々のカレーうどんを平らげてから新大阪駅に向かった。
大阪駅から新大阪駅までJRで4分。
結局、新大阪駅に着いても時間を持て余していた僕は、仕方なく地下にあるドトールで時間を潰すことにする。
周りのほとんどがスーツを着たサラリーマン風の方ばかりで、皆、PCやスマホで何かしらの作業をしているのか、誰かと連絡を取っているのか、とにかくずっと触っている。
金曜になると夕方から夜にかけての新大阪駅は、おそらく出張帰りであろうビジネスマンの方々がたくさんいる。
皆、ビニールのお土産袋やスーツケースを席の傍に置いているので、きっと出張帰りだろうと勝手に妄想している。
僕は上がパーカー、下がジーンズというかなりカジュアルな装いなので、周りの人からは出張帰りだとは予想もつかないだろうと思う。
特にフォーマルな装いで会わなければならない人もいなければ、今回の大阪出張はそのような目的の仕事でもないので、かなりラフな格好で来てしまった。
もうずいぶん長いことスーツを着ていない。
今の仕事に就く前は、このカフェで同じ時を過ごす多くの方々と同様、僕もスーツを着て働いていた。
そしてスーツは時代の流行と自分の昇格とともにジャケットとパンツ、いわゆるジャケパンとなり、その後、仕事も変わりカジュアルな私服へと変わった。
僕はスーツが好きだった。
スーツそのものも好きだし、スーツを作ることも雑誌で流行りのスーツを眺めたり、道行く人のスーツの柄や着こなしを見るのも好きだった。
そして毎朝自分のスーツ姿を鏡で確認することも好きだったし、スーツを着ることで人として大きく、強くなれたような気がした。
スーツを着ることで社内でのピリッとした自分やお客さんに対して安心感を持ってもらえるような自分を演出していたような気がする。
むしろスーツを着て働く多くの人が、そのような感覚を覚えているはずだと思う。
スーツを着て仕事をしている時はそんなこと思いもしなかったけど、スーツを着なくなった今、こうして店内で忙しそうにしているスーツの方々を見て、ふとそう思う。

僕はスーツを着て遠出するのが嫌だ。
スーツを着たまま、車や新幹線、飛行機など長時間乗っていると深いシワが出来てしまうし、替えのスーツを持ち運ぶのも何かと億劫だ。
休みの日にもなればシワを取るためにアイロンをかけないといけないし、定期的にクリーニングにも出さなきゃいけない。
汚れなんて着こうものならさらに大変だ。
せっかく仕事から解放された休みもこうして奪われてしまうのだ。
どんなに高くてキレイなスーツを作ってみてもみるみるうちに消耗していく。
まるでスーツそのものが僕自身を映しているようだったと今になって思う。
スーツを着ている人全てが消耗しているとは言わないし、僕自身もスーツを着て働いている当時は、自分が消耗していると感じたことはなかった。
しかし当時の僕は異常だった。
スーツはまるで鎧のようで、無敵の鎧をまとった戦士が戦場で猛るように、異常な雰囲気で働いていた。
まさに企業戦士だ。
もうあの頃のようには働けないし、働きたくない。
思い返してみれば、初めて大阪に出張で来た時も正常ではなかった。

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